火を託す森

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燈燈無尽。私の火は娘に託します。あとを頼む。
そう記された手紙が、かつて通った小学校の校長から届いた。
昭和の終わりに廃校になった私の小学校は山の麓の森の中にあって、最後の校長は今もその校舎の用務員室で暮らしているという。
廃校後は辺りの土地に人の手が入ることはなく、倒木や群生する植物によって学校への道は閉ざされているはずだった。
「気長に待っています」
封筒には妻からの手紙が同封されていて、激しく浮気におぼれていた私に、目が醒めたら小学校に迎えに来てほしいとあった。
妻とは幼なじみで同じ小学校に通った。最後の校長は妻の父だという。初耳だった。
人は誰しも一本の蝋燭で、長短あっても必ず消えるもの。私の命が尽きるとき、私の火はあなたに託したいと思う。愛しています。
妻の言葉に触れて、私は獣道を母校に向かって走った。
闇夜の校舎で揺れる狐火が妻に託されるのを確かに見たが、それで私は風と消えた。
公開:20/07/02 18:49

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