鹿の恩返し

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昨日仕掛けた罠に、鹿がかかっていた。
これで当分困らなくてすむと罠から鹿の右足を外そうとした時、鹿に懇願された。
「見逃してください。子供がいるんです」
「そうは言ってもなあ」
「本当に困った時、必ず助けに行きますから」
僕は黙って罠を外してやると、鹿はお辞儀をして走って消えた。

鹿の事など忘れ、三年分歳を重ねた頃、野生動物の減少で肉が手に入らず、作物も干ばつの影響で収穫が見込めなかった。
その年の冬は雪が深く、家にいるしかなくなると冬を越せないかもしれないと僕はいよいよ死を覚悟した。

夜が深くなった時分、戸の前でドサリッと大きな物音がした。屋根の雪が落ちたのかと見てみると、鹿が倒れて動かなくなっていた。
右の足首には古い傷がある。
「おまえ…」
気配に顔を上げると、離れた場所から小柄な鹿がこちらをじっと見つめていた。鹿は小さくお辞儀をすると雪景色の中へ溶け込んですぐに見えなくなった。
ファンタジー
公開:20/07/04 09:15
更新:20/07/04 20:26

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

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