蟻の行く先

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 蟻の行列はどこに続いているのか。興味本位で辿った先には蝉の死骸があった。無残に食い破られ、蟻たちが体内を闊歩していた。
 俺たちは蟻のようだ。
 慣れない真っ黒のネクタイをきつく締めすぎたのだろうか、どうにも息苦しい。葬儀場には数多の人間が群がっている。
 巨星、墜つ。そんな見出しがニュースサイトを駆け回っていた。
 故人との関わりは酷く薄い。監督と役者でありながら雑用として幾度かこき使われた程度で、その葬儀に押しかけるのは場違いといえる。水よりもなお味気ない間柄だった。
 喉が渇く。額から吹き出た汗が頬を伝う。だけれど、食らわねば。
 じきにレンズは俺へと向いた。
「監督には長い間お世話になって……」
 言い淀んで目を伏せる。名監督の訃報にはきっと、ステレオタイプな悲しみがよく映える。
 俺たちは飛べないというのに。蝉の死骸を食らったところで、地べたを這いずる蟻でしかないというのに。
その他
公開:20/07/04 02:54

ぴろしき

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上記アカウントにて駄文を垂れ流しているインターネットポエム揚げパン。
にほんご、すき。

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