雨細工

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「あめざいくはいらんかね~」
鬱陶しい梅雨の季節に威勢のいい屋台の声が聞こえてきた。
近寄ってみると、幟旗に『飴細工』ではなく『雨細工』とある。
「そこの旦那、雨には、さまざまな場景があるのを知っているかい。
例えば、樹雨は濃霧の森林を歩いているときに葉や枝から滴り落ちてくる雨、怪雨はつむじ風によって巻き上げられた異物を含む雨、血雨は火山灰など土壌由来の成分を含んだ赤い色の雨、私雨は下は晴れているのに山の上の狭い範囲だけに降る雨で、箱根や鈴鹿、比叡、丹波などが有名。外持雨は限られた場所や人だけを潤す俄雨のことさ」
「へぇー、知りませんでした。ところで、お勧めの雨細工は何ですか?」
「催花雨。花の育成を促す雨で、早く咲けと花を急き立てるように降る雨のことさ」
「それじゃあ、催花雨をください」
すると、店主の水芸によって雨脚のような水流が蕾の形になり、次第に開き始めて見事な紫陽花の形になった。
その他
公開:20/07/03 19:50
梅雨 飴細工 細工 樹雨 怪雨 血雨 私雨 外持雨 催花雨 紫陽花

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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