一歯報いる

バスケの試合、俺達は完全に弄ばれていた。
ボールはゴールを狙わず俺達の目の前を素早く移動する。あまりの勢いに俺達は目の前を通過するボールにビビっていた。
ビビっていたのは速さだけではない。巨大すぎる体は目の前にあるだけで圧倒される。
負けて当然だ…もう諦めよう…それでいいのか？
悔しかった。だから俺は思い切って前に出る。どうせ負けなんだ。ファウルを恐れるな！突っ込んでいけ！
俺は意地を見せ、１度だけゴールを決めた。

試合終了後、相手が俺に声をかけてきた。
「第一歯誕生おめでとう」
そこに嘲りの雰囲気はない。
「窮鼠猫を噛む。噛みついてくるような奴じゃないと歯応えがないからな。ナイスガッツ！歯が生え揃ったら、また試合しようぜ！」

第一歯。そんな言葉は勿論ない。
相手は牙を抜かれた俺達に第一歯という入れ知恵ならぬ入れ歯を使う機会を与えてくれた。
畜生…これだからバスケはやめられないんだよ！