白地図の猫-9

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午後じゅう探して、空が半分夜になるころ、あの庭を見つけた。
銀色のへいに囲まれた工事現場。バラも噴水もレンガの道も、四角い家のあとも、何から何まで掘り返されて、ぺたんこの茶色い地面に変わってた。
動いてないダンプカーと、片付け忘れたみたいな看板が一つ。
工事のおしまいの日は昨日だった。


看板の字が見えなくなるまでそこにいて、お父さんに連れ戻されて、怒られて部屋に押し込められて。
だから、僕にはもう分かってた。

――アキト。
秘密の庭で、チョウの羽をはやしたコハルがしゃべった。
僕にはもう、これが夢だって分かってた。
「ねぇハル君。……なんで?」
――ごめん、アキト。
ハル君はもう、戻って来ないんだって分かってた。
「なんで、言ってくれなかったの」
なんで死んじゃったの、なんて聞きたくなかった。

――二人で見ようよって、言いたかったから。
コハルの羽が、目の中でバターみたいにとけた。
ファンタジー
公開:20/07/02 16:10

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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