たぷたぷ

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明け方まで降り続いた雨がやんで、軒先から落ちる水滴が朝日に照れたように虹色をはらんでいる。
ぴちょん。ぴちょん。
私の脳もずぶ濡れだ。眉毛の端から漏れにじむ水が、軒先の水滴と競うように滴り続ける。私はカーペットを汚さぬようにその水をコーヒーカップで受ける。淹れたてだったコーヒーは飲むたびに薄まって悲しい味になっていく。これが梅雨だ。梅雨の湿気はおそろしい。
脳に潤いは必要だけれど、びちゃびちゃなのは困りものだ。
視界がにじむ。耳たぶが垂れる。勝手に指パッチンをはじめる手。下半身はコサックダンスをやめない。膝は夏の桃のように熟して、かじると優しい甘みがある。
私は脳を乾かすためにベランダに出た。見下ろす隅田川の流れが、私の目には濃厚なトロミのある液体に見えて、急な空腹をおぼえる。
川面に浮かぶ野菜や肉やパイナップル。酢豚のような風。
早く脳よ乾け。私はごはんを炊きたいんだ。たぷたぷの水で。
公開:20/07/02 13:48

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