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ある日、街を歩いていると、目の前の空間に男が忽然と現れた。「薬をくれ。」彼は座りながらぶっきらぼうに手を伸ばして言った。私は仕方なく、手持ちの注射器を数本渡してやろうとした。すると彼は叩くようにして私の手から注射器を奪い取った。「ありがてぇ。」彼はニヤリと口を歪ませ、そのまま自らの痩せこけた腕に針を突き刺した。
「ああ。」ウシガエルのような低く欠けた声がその場を響かせ、握りしめた手から注射器を落としたかと思うと、突然二たび痙攣し、そのまま顔を伏せるようにして蹲ってしまった。
私は仕方なく立ち去ろうとその場を離れたが、少し様子が気になり、ちらりと彼の方を振り向いた。
蹲っていた彼は、もう消えてしまっていた。
いずれ私もああなるのだろうか。私は穴だらけの腕に注射針を刺してから、また歩き始めた。
公開:20/07/02 13:38

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