ブランコ

0
2

自分だけで揺れることはできない。誰かに息を吹きかけられたり、両足で踏みつけられたり、押してもらったりしないと揺れることはできない。私は色々な人を見てきた。お母さんに押してもらって嬉しそうだった男の子。初恋が実らないとわかったあの夜に思い切り泣いていた女の子。私と共に彼らの心も揺れていた。今は揺れていない。月が綺麗に見える。この時間帯に人が来ることはなかなかなかった。静まり返った夜に遠くから魔女でも出てくるのかと思う鳥の鳴き声が響く。ふと鳥の声に混じりコツ、コツコツ、とアスファルトと靴が触れ合う音が少し遠くから聞こえてきた。靴音は少しずつ近づいてきて私の前で止まった。こんな時間に彼は何しにきたのか。私の腕にそっと触れた指は冷たく少し背筋が凍った。こんないい夜に君はどんな揺れ方をさせてくれるのだろうか。私は楽しみで仕方がなかった。
ミステリー・推理
公開:20/07/01 23:37

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容