それでも焼肉は

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「もう何も思いつかないんだよ。」
夫は繊細なガラス細工を割ってしまったような声で宣う。
いつもの事なので私もどうしたのと音を出す。

「俺のアイデアは枯渇してしまった。やっぱり俺には面白いストーリーを書くのは無理なんだ。」
そんなことない。自分に厳しすぎるんだよと音を出す。
ネガティブなくせに完璧主義なのでたちが悪い。

「俺が本物なら、こんな事で行き詰まってちゃだめなんだ。どんなコンディションでも一定の物をあげないと」

不快なのは湿度だけにしてほしいわと、いよいよ私は声をかける。
「分かった。良いこと教えてあげる。どんなに悩んで落ち込んでも変わらない人間の素晴らしさがある。」

夫は、なんだいという顔をこっちに向ける。

「それでも焼肉は美味しい。」

なんじゃそりゃという顔が帰っていく。

「食べる?」


「食べる。」
その他
公開:20/07/01 07:00
更新:20/07/07 00:01

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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