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「こんなところに美術館…あったかな?」

15年ぶりに実家に帰ってきた僕は、荷物を片づけると、やることもなく夕飯まで手持ち無沙汰だった。
「暇だなぁ。散歩でもしてくるか」
近所の様子はガラッと変わった。道路が広がって、田んぼだったところに家が建って。真夏の午後に外を歩く人も、いない。暑さしのぎにとその美術館に入ることにした。
受付でチケットを買い、展示室へ…誰もいない。僕だけ。静かでいいが、落ち着かない。
「浮世絵……東海道…ふうん…」
大雨に降られた人達が慌てて走ってる版画が目にとまった。
僕はなんだか可笑しくて、思わずうふっと声がもれたその時…版画がピカッと光った気がした。
「ん?稲妻?」眼をこすったが版画は元のまま。ひとまわり展示を見て、外に出た。
と、土砂降りの大雨。傘なんてない。目の前を走り抜けていく男の姿はなんと…あの浮世絵のまま。
僕は、駕籠かきの後ろを、大慌てに走りだした。
ファンタジー
公開:20/06/29 16:17

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