初夏の恋

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夏至が過ぎて別れが近づく。
彼の家族がもうすぐ帰ってくるのだ。
始めから彼は私だけを愛してくれないことはわかっていた。
それでも、濡れたように輝く漆黒の毛、セピア色の物憂い瞳、知的な物腰に魅了されてしまった。

彼と儚い豊潤なひとときを過ごす。
私達は少し贅沢な食事をとりながら、他愛もないおしゃべりをする。
乾いた芝生の上で転げ回って、よく笑った。
そして、緑陰の奥深くから流れてくるひんやりとした香りに包まれながら、読書もした。

横たわる彼の温かい頬にそっと顔をよせる。
家族のもとに帰らないで、私を選んでくれないだろうか。
タイフーンの予兆のように暗雲が私の心に広がりはじめるが、すぐに理性を取り戻す。


彼は去り、私は盛夏の夜を彩る花火を見るために、ひとりで裏庭へでる。
寂寞とした雨に似た輝く光粉に濡れそぼりながら、彼の幸せを願う。
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公開:20/06/29 05:52
更新:20/06/29 07:48
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皆様の作品やコメントは、新しいアイディアが生まれて勉強になります!

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