くわばらくわばら
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霧深い山道を、若い男女が歩いている。
「桑の花言葉を知っている?」
前方を指して男が問う。道を真横に塞ぐ形で、桑の木が枝を張っている。男の頭の高さに、赤黒く熟した実が下がる。
「知っているわ」
乾いた響きで女が答え、軽く喉を鳴らした。
「桑の花の花言葉は『彼女の全てが好き』だよ。……でも、桑の木には別の花言葉もあってね」
男は微笑み、太い枝に手を掛けた。数回、確かめる加減で揺する。
「ロミオとジュリエットの原型とされる、悲恋の伝説から生まれた言葉」
女は黙って男に並び、桑の実を摘むと口に含んだ。
「桑の実の赤は恋人達の血。桑の木の花言葉は『共に死のう』だ」
女は男の首を抱き、唇を重ねた。
「花言葉は他にもあるわ」
男の体が震え、道に倒れ伏す。ロープが手からこぼれた。
「黒い桑の実の花言葉は、『私は貴方より生き延びる』よ」
赤黒く染まりゆく唇を見下ろし、女は口に含んだ毒の名残りを吐き捨てた。
「桑の花言葉を知っている?」
前方を指して男が問う。道を真横に塞ぐ形で、桑の木が枝を張っている。男の頭の高さに、赤黒く熟した実が下がる。
「知っているわ」
乾いた響きで女が答え、軽く喉を鳴らした。
「桑の花の花言葉は『彼女の全てが好き』だよ。……でも、桑の木には別の花言葉もあってね」
男は微笑み、太い枝に手を掛けた。数回、確かめる加減で揺する。
「ロミオとジュリエットの原型とされる、悲恋の伝説から生まれた言葉」
女は黙って男に並び、桑の実を摘むと口に含んだ。
「桑の実の赤は恋人達の血。桑の木の花言葉は『共に死のう』だ」
女は男の首を抱き、唇を重ねた。
「花言葉は他にもあるわ」
男の体が震え、道に倒れ伏す。ロープが手からこぼれた。
「黒い桑の実の花言葉は、『私は貴方より生き延びる』よ」
赤黒く染まりゆく唇を見下ろし、女は口に含んだ毒の名残りを吐き捨てた。
ホラー
公開:20/06/28 23:59
更新:20/06/29 00:10
更新:20/06/29 00:10
ギリシャ神話
『ピュラモスとティスベ』より
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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