おわかれロードショー

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彼の愛車で飛ばしてる。たいてい乗る時は一緒だったけど、私たちの、というよりやっぱり、彼の、の方がしっくりくる。

休みの日にはよく洗車してた。仕上げにボンネットを開けては、ふんふんとか頷いてバンと閉める。結構な確率で次の日は雨降っちゃうし、ただのパンクだってJAF呼んじゃうくせに。

初七日を過ぎ四十九日を迎えても、なぜか私は泣いていない。もう会えない、という気がしないのだ。きっとこの車も一緒。アクセル踏んだら当たり前みたいにスピード上げちゃって。

知らないインターを降りて、思うままに山道を突き進む。日の沈みかけた崖っぷちに車を停めて息をひとつ。私はハンドルの真ん中を思いきり押し込む。

空いっぱいにブザーが鳴り響く。と同時にとっぷり日が暮れて、ヘッドライトが向かいの山肌に当たる。

彼の面影が浮かんだ。

…空が白み始めている。終演ブザーかと思ったら、クラクションが泣き叫んでいた。
ファンタジー
公開:20/06/29 16:40

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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