喪失館

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ここは喪失の館。

大切な人、大事にしてきた物事を失ってしまった人が訪れる館。

今日も俯き加減で館を訪れた方が1人。

「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょうか?」

受付の女性に用件を聞かれたが俯いたまま答えない。

喪失感で気力がなく言葉も出ないのだ。

訪問客は無言を貫く。

受付嬢は心得たとばかりに紙に番号を書き渡した。

「こちらの番号と同じ番号が書かれている扉を開け、中へお入りください」

訪問客は紙を受け取ると同じ番号の扉を開けた。

部屋の中は殺風景で真ん中の台の上に丸い物が置かれているだけだ。

訪問客は台の所まで行き丸い物を手に取ると途端に蹲り嗚咽を漏らす。

握り締めた丸い物が手から溢れ出し、体をハグする様に包み込んでいく。

しばらくの間蹲っていた訪問客はおもむろに立ち上がり、部屋を後にした。

台の上に喪失感を残して。

いつか向き合えるその日まで。
その他
公開:20/06/28 08:34

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