処方薬

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「お薬が出しときます」
 会計をすませて処方箋を受け取り、隣にあった『すもも薬局』に行って処方箋を出した。
「すみません。この処方薬はうちに在庫がありません」
「じゃ、ほかへいきます」
『へちま薬局』
『ドラッグしまうま』
『すいか薬局』
『アリストテレスファーマシー』
 対応はどこも同じだった。いつしか僕は、知らない町の寂しい道を車で走っていた。
『きのこ薬局』
 ここが駄目ならもう諦めよう、と処方箋を渡すと「少々お待ちください」と番号札を渡された。
 番号が呼ばれて顔を上げると、カウンターにはZIPロックの袋に小分けにされた沢山のきのこが積み上げられていた。
「こちらは毎食後一包。こちらは…」
「あのこれ、きのこですよね?」
「はい。処方通りです」
 薬剤師は平然と答えて説明を続ける。僕はもう、素直に聞こうと思った。
「こちらは寝る前に二包…」
 結果、松茸だけはジェネリックになった。
その他
公開:20/06/26 12:11

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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