唐揚げ

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「大悟がいたころはねぇ。よく一緒に唐揚げを揚げたわねぇ」
「私が全然手伝っていないって言いたいの、ママ」
 年老いた母親の隣で唐揚げを揚げながら、娘の香純が言う。
「あの子がね、生きてたらねぇ……。親より先に死ぬのは親不孝だってあれほど言ったのに。大悟は唐揚げ、大好きだったわね」
 そんな母親のセリフはしょっちゅうなのでああまたかと香純は思う。
「おい、俺を勝手に殺すなよ」
 先程帰省してきたばかりの大悟がキッチンに入ってくる。
「大悟!大悟じゃないか、生きていたのかい」
「母さん、とうとうボケたのか」
「会いたかったよおおおお、大悟」
 母親は大悟の肩を揺さぶって叫んだ。香純はため息をつく。
「あのね、ママはただお兄ちゃんにかまって欲しいだけ。単なるごっこ遊び! ボケてなんかいないわよ。体も頭もピンピンしてるわ。大変なんだからもう」
「あー楽しかった」
 母親は再び唐揚げを揚げ始めた。 
その他
公開:20/06/26 09:47
更新:20/06/26 13:41

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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