水面の好敵手②

押してダメなら引いてみる。動がダメなら静。
人生の鉄則。
陰毛獲りにも同じ事が言えるハズだ。

開いた手を音もなく湯の中に滑り込ませる。
湯の流れを計算し、彼の走行ルートを予測、ゆっくりと手を動かす。

この位置だ。
あとは彼がここまで泳いでくるのを待つのみ。
獲物が罠にかかるのを待つハンターのように息をひそめた。

愚かな陰毛だ。
のんきにスイスイと泳いでくる。
彼が手の平に侵入したのを確認し、一気に掴む。

完璧だ。
どれだけ強がってはみても所詮陰毛である、人間様の敵ではない。
勝利を確信した僕はゆっくりと握ったこぶしを開く。

しかしどういうわけか、彼の姿は見当たらないのである。
湯を確認するとやはり彼は何事もなかったかのように泳いでいる。
「あくびがでるぜ」とでも言いたげだった。

もう怒った。