骨のオシャレ(つづき)

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ある日、祖母が部屋にやってきた。
「お母さんもいたから優奈にあんなことを言って本当に悪かったね。実は相談があって、私も『骨のオシャレ』やらをしてみようかと思うの。
梅雨の季節になると、若い頃におじいさんと初めてデートで訪れた所のこと、おじいさんが病に倒れる前に最後のデートで訪れた所のことを思い出すの。どちらも同じ所で、箱根登山鉄道の“あじさい電車”に乗って紫陽花を見に行ったのよ。車窓に触れるほど咲き誇る沿線の紫陽花は言葉にできないくらい美しくて……」
祖母は、亡き祖父との懐かしい思い出に耽っているような表情を浮かべた。

すると祖母は、手に持っていたスケッチブックを開き、一枚の絵を見せた。
「私が水彩画で描いた紫陽花。これを胸骨にあしらってもらおうと思うの。
おじいさんとの思い出を胸の内にしまっておこうと思ってね。お母さんには内緒、優奈との秘め事よ」
いたずらっぽく笑う祖母が乙女に見えた。
青春
公開:20/06/27 07:02
『とってもふしぎな創作ドリル』 「ストーリー06 骨のオシャレ」 祖母 梅雨 デート 箱根登山鉄道 あじさい電車 紫陽花 水彩画 胸骨

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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