音庭の茶会

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古刹の日本庭園に五月雨が降ってきた。
「カコーン!」
茶室前に設けられた鹿威しに雨水が溜まって竹筒が傾くと、手水鉢に吸い込まれていく。
耳を澄ましてごらん。
「コンコン、コンコン……」
「キンキン、キンキン……」
金管楽器のような音色が聴こえる。
さあ、水の妖精たちが地中の水琴窟で演奏を始めるよ。
「コローン、カラーン……」
「クォーン、キュピョーン……」
体鳴、膜鳴、弦鳴、気鳴、電鳴――さまざまな楽器があるけれど、アクアフォン(液鳴楽器)が雨中の音を奏でる。
そして、共鳴した音は増幅され、大地を伝わってゆく。もしかしたら、壮大な無限の空間に広がる宇宙の音かもしれない。
松籟(茶釜の湯が煮えたぎる音)とのハーモニーも格別だ。
茶室は小宇宙、幽玄の世界。凛とした空気が流れて茶聖、千利休の面影を感じる。
言霊のような魂が宿る音庭に響く旋律に合わせ、しばし俗世を離れて茶会を楽しもうじゃないか。
その他
公開:20/06/26 19:47
古刹 日本庭園 五月雨 茶室 鹿威し 手水鉢 金管楽器 水琴窟 共鳴 松籟

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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