座るべからず

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「この湖畔一帯を開発するのは如何なものかと…あのベンチのような形をした石は祠ではないかと噂がございますし」

雇った若いガイドは俺にそう言った。

「は?あの石がか?馬鹿馬鹿しい」

気の触る男だ。ガイドの癖に不自然なほど色白なのも気に食わない。
俺はお構いなしに先へ進む。

「禁足地なんですよ!ここ!」男は俺に向かって叫ぶ。

「神隠しの伝説か!そんなもんでっち上げだ!ここに露天風呂をドカーンと作って、この石は涼みのベンチでもすればいいさ」
俺は石に腰を掛けた。

ズサッ

鋭利な刃で脳天を突き破られた感覚に襲われると視界が斜めに崩れ、そして何も見えなくなった。

「一瞬で凍って粉々に散る…涼み過ぎちゃいましたね。ベンチの石は祠じゃなくて、ここに氷穴があるって目印なんですよ。神隠しではなく、温度差が激しいんです」

そう告げ若い男の身体から、白狐が飛び出し、弧を描きながら氷穴に消えた。
ホラー
公開:20/06/25 07:30
更新:20/06/25 07:39
スクー 温度のあるベンチ

さささ ゆゆ( 東京 )

最近生業が忙しく、庭の手入れが疎かな庭師の庭でございます。

「これはいかんっ!!」と突然来ては草刈りをガツガツとし、バンバン種を撒きます。

なので庭は、愉快も怖いも不思議もごちゃごちゃ。

でもね、よく読むと同じ花だってわかりますよ。


Twitter:さささ ゆゆ@sa3_yu2





 

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