くれるのか?

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「それを俺にくれるのか?」
君は両手を差し出したまま困惑の顔を浮かべた。
俺は何故それが貰えるものと思い込んだのだろう。名前も知らない実と、松毬、そして、それはなに?
明日の飯にすら不安を覚える俺にとって、それらはまるで魅力的なものではなかった。
どんなに惨めになっても他人の世話になんかならないと決めていた。それなのに、その両手いっぱいのものたちが俺のためにあればいいと思っている。
困った表情、煤けた頬、小さな唇は細かく震えていた。
俺はポケットから一枚の銅貨を取り出した。
「その赤い実を五つ貰おうか」
君の顔に赤みがさした。そして、小さな唇から言葉がこぼれる。
「七つあげるよ」
俺の左手には七つの知らない実。君の右手には一枚の銅貨。
君は右手をしっかり握りしめて駆け出した。
「転ぶなよ」
もう一度振り向かないだろうか。俺は左手をそっと握り、その小さな背中をいつまでも眺めていた。
その他
公開:20/06/24 22:43
更新:20/06/24 22:46

puzzzle( 神奈川19区 )

作文とロックンロールが好きです。
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