しみ抜き職人

街の片隅にポツンと佇むクリーニング屋。
近所の人達に愛される店主の腕は確かで今日も店はそれなりに繁盛している。
そんな店に今日、警察官がやって来た。
「オヤジさん。迎えに参りました」
店主は後継者たる息子に店の留守を任せると黒塗りの車に乗り、刑務所へと連れられて行った。

店主を待ち受けていた者。それは今日、刑期を終える囚人達だった。
店主はそんな囚人一人一人に手を当て、体に染みついたスリの技法を次々と抜いていく。
「もう二度と犯罪に手を染めない」
それを本当の意味にする為の儀式でもある。

店主が家に帰ると留守を任された息子が額に汗を浮かべ、しみ抜きに挑んでいた。
兄姉弟妹達がそれを見守る。
店主の業は一子相伝。兄姉弟妹達はそれを受け継げないと分かるや、その染みついた技の数々を抜かれた。
そうでもしないと、この業界に未練を残してしまう。
後顧の憂いを断つ為にも、しみ抜きは必要なんだ。