遠くとおくの木陰から

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スプーンからコーヒー豆が一粒こぼれ落ちた。気づかぬふりしてミルのスイッチを入れると強い視線。よく見れば、落ちた豆の筋がひび割れて目玉が覗いている。

意思がありそうだ。

しばらく見合ったが汲み取れない。瞼はみるみる開いていく。潤んだ瞳が露わになる。不思議と怖くはない。木陰がよく似合う黒目に、ほのかな光が揺れる。

粗挽きの粉をフィルターに移すと、ポットの湯がちょうど良く冷め始めている。ほそく湯を回しいれると、膨らんだ粉から香りが立ち上る。豆はゆっくり目を閉じる。私もそれに倣う。

昼下がり。私と豆だけの数十秒。

まどろみの向こうから声が聞こえる。知らない国の言葉だ。目を開けると、豆はちょうど閉じたところ。今度はきっと口にでもなってたんだろう。

コーヒーを落とし切ってカップに注ぐ。窓の外は予報どおりに降り出した。豆は豆のまま転がっていたが、今日のグアテマラはいつもよりグアテマラだった。
その他
公開:20/06/22 17:42

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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