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梅雨晴れに、片翅の半ば千切れた蜉蝣(かげろう)の、ふゆゝゝと崖路の三寸ばかり下、風に流れて往くのを目に止め、突っ掛けの先を沓脱石(くつぬぎいし)に打ちました。
羽虫の地摺りは雨催い。取込みには一刻程早いのですが、見遣れば空も垂れ込めて、今しも落ちそうな塩梅でした。
背戸の竿から薄湿りの洗濯物を外す間に、ふゆ、とまた一匹、私の膝辺りを過ぎて、
はたん。低い空で翅が捥げ、突っ掛けの合に墜ちました。
一滴の雪でした。それは見る見る透き通り、指を流れて逝きました。
一寸の虫にも五分の魂と申しますけれど、短ければ一日に尽きるあの翅は、何分の魂を運んでいたのでしょう。冷たくなった指を縮め、取込みの続きに掛かりました。
重くなった腕をまた、ふゆゝゝと蜉蝣が掠めます。今度は両の翅を広げ、確と崖を越しました。
目で追った先、そよいでいたのは雪の下。白い二弁花が次々と茎を離れ、夕風に羽ばたいて往きました。
羽虫の地摺りは雨催い。取込みには一刻程早いのですが、見遣れば空も垂れ込めて、今しも落ちそうな塩梅でした。
背戸の竿から薄湿りの洗濯物を外す間に、ふゆ、とまた一匹、私の膝辺りを過ぎて、
はたん。低い空で翅が捥げ、突っ掛けの合に墜ちました。
一滴の雪でした。それは見る見る透き通り、指を流れて逝きました。
一寸の虫にも五分の魂と申しますけれど、短ければ一日に尽きるあの翅は、何分の魂を運んでいたのでしょう。冷たくなった指を縮め、取込みの続きに掛かりました。
重くなった腕をまた、ふゆゝゝと蜉蝣が掠めます。今度は両の翅を広げ、確と崖を越しました。
目で追った先、そよいでいたのは雪の下。白い二弁花が次々と茎を離れ、夕風に羽ばたいて往きました。
ファンタジー
公開:20/06/22 17:41
雪の下(ゆきのした)と
蜉蝣(かげろう)の翅
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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