小さな黒い犬

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 右折のために交差点へ進入して、直進車の途切れるのを待っているとき、歩道で信号待ちをしている男性の姿が目にとまった。明らかに肌着の半そでシャツに白茶けた野球帽をかぶり、その帽子と同じような色のズボンをだらしなく履いた赤ら顔の男性で、右手に赤いリードを握っていた。リードの先は躑躅の生垣に隠れていて見えなかったが、小さな黒い犬を連れているのだろう。
 僕は直進車が全く途切れないことに苛立っていたので、小さな黒い犬を見て心を和ませたかったのだが、赤いリードはピクリとも動かず、男性の方も犬のことを全く気にしていないようだった。
 ようやく直進車の車列が途切れ、僕はアクセルを踏んだ。ぐるりと景色が回転して、躑躅の生垣の反対側がチラリと見えた。
 男性が握っている赤いリードの先は、躑躅の生垣に結ばれていた。小さな黒い犬なんて、いなかったのだ。
 後続車がいたため、僕はそのまま病院へ向かうしかなかった。
その他
公開:20/06/22 13:25

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

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