やくそくのこちらがわ

2
4

「やくそくだよ」

私の七つの誕生日、淡い薄紫の世界で男の子は花を差し出して言った。

「ぼくのおよめさんになってね。やくそくだよ」

幼い頃よく、みっちゃんと私と男の子の3人で遊んでいた。

けれど、男の子はあの日以来姿を現さず、名前も知らない事に幼いながら愕然としたものだった。

十年もすると記憶も薄れ、十九で結婚し子供も出来た。
早くに夫に先立たれ慌ただしく毎日を過ごし、気付けば孫も産まれていた。

忙しさから解放され、昔の事に思いを馳せる事が増えた。

そんな時『認知症』と診断された。

施設に入り、どれくらい経ったのだろうか?

懐かしい夢を見た。

あの男の子の夢だ。

『僕はね神様なんだ。約束だよ、お嫁になってね』

差し出された花を受け取ると、くすぐったい想いが溢れる。

「それ、どうしたの?」

みっちゃんが言う。

「ふふ。あのね、私ね、土地神様のお嫁になるの」
ファンタジー
公開:20/06/23 17:10
更新:20/06/23 19:35

右左上左右右

アイコンは壬生野サルさんに描いて頂きました。ありがたや、ありがたや。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容