シンカ

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皮肉にも日の光が暖かくて眩しくて、朝の空気は透き通って見える。清々しいのではないかと感じる。
それを実感するにはこの厚布は邪魔でしかたがない。付属品も。
「この清々しい空気を肺いっぱいに送り込む」
なんていうのは昔話か御伽噺か。

外で見かける人全員もれなく顔の半分以上が隠れている。この汚れきった空気を吸わないために。
皆背に大きなボンベを背負っている。この荒みきった空気に侵されないために。

2082年
50年前に突如現れた新型ウイルスは猛威をふるい、世界の人口の10分の1が死に絶えた。ウイルスは終息すること無くパンデミックを繰り返し日々変貌変体を繰り返し人々を恐怖の深淵へと誘った。

この50年前に呼ばれていた「マスク」とはかけ離れたマスクと各家庭におかれた室内浄化装置だけが我々の命綱である。
その他
公開:20/06/23 05:35

鳴平伝八

なりひらでんぱち
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