いつわりの鳥

陸上男子200m予選が始まる。カメラマンが機材を調整する。昨日の雨で水たまりができていた。カメラマンはファインダーを覗いて、ふと水たまりにカメラを向けた。小さな鳥が映る、と思うまもなく鳥がカメラに向かってぶつかってきた。カメラから目を離したが水たまりにも空にも鳥はいなかった。
選手たちがスタートラインにつく。
スタート！カメラが選手たちを追う。鳥の影がばたばたと飛ぶのがファインダーに見えた。選手たちがゴールインしてから、モニターを見た。疾走する選手の間に鳥が飛ぶ。フレームにぶつかっては画面のなかで飛び回る。
スタジオに戻って映像を何度も見た。何度見ても画面の中に鳥がいる。
しばらく考えてカメラマンは壁の鏡にカメラを向けた。ファインダーを覗くと鳥がばたばたと出ていった。カメラをおいて見回したが鳥はいない。
スタジオの窓から出たのか、鏡に消えたのか。「どちらでもいいさ」カメラマンはつぶやいた。