雨のコーヒー(つづき)

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夕立のコーヒーを最後の一滴まで味わいつくすと、空っぽのマグカップから雨上がりのにおいがしてきた。
実際に緑の中で土の香りを楽しんでいるような気分だ。
するとカップの底から草木や花から滴る雨粒の音がしてきた。そしてカップの中に雨粒がたまっていきキラキラと輝いている。
カップの中にぎっしりと雨粒がたまると、店主が声をかけてきた。
「夕立のコーヒーを飲み終えると、カップの底に小さな橋のような虹がかかることがあるのですが、今回は珍しいケースですね。感受性が高いお客様に起こる現象です。せっかくの機会ですから二杯目をサービスしますよ」
店主は、カップにたまった雨粒を取りだして別のコーヒーを作り始め、出来上がったコーヒーをグラスに注いだ。
「これは当店でもめったに飲めない夕立後の水出しコーヒーです」
ひと口すするとひんやり喉が潤い、夕立後に緑の中を散歩しているような爽やかで、すっきりとした感覚になった。
その他
公開:20/06/21 07:13
『とってもふしぎな創作ドリル』 「ストーリー13 雨のコーヒー」 夕立 コーヒー 雨上がり 雨粒 水出しコーヒー

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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