書き換え②

言葉が物の性質を定義するようになった。書き損じや変換ミスで物の中身が変わってしまうため、人々は誤字脱字に細心の注意を払っていた。

少年は腹が減っていた。漢字テストでひどい点を取ったのが母にばれ、献立を自分で書かなければならなくなったのだ。
「うちはいつも玄米だから、今日はしろいごはんがいいなあ。それからたまご。やきざかな、だと何が出てくるか分からないから、『鮭』は練習したんだ！あ、あれ？『やく』の漢字の方が思い出せなくなっちゃった…火偏に…えーと…」
「時間切れ。遅刻するわよ」
母は少年が書いた献立を見てため息をつく。
「いつもちょーっと不注意なのよねえ…」
少年の前には、ほんの一口の百粒の米。どこの国の人かもわからない王子さま。火がついて燃えてゆく鮭。
「お味噌汁、は難しくて書けないだろうから、おまけよ。」
いつもよりしょっぱく感じる味噌汁を飲み干して、少年は学校に向かうのだった。