煙家族

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銭湯"一の湯"の煙突からモクモクと勢いよく出る煙。僕の自慢の父だ。一方、平屋の土間の竈から夕ご飯の暖かい匂いとともにフワフワと流れてくる煙が僕の母。そして、庭の方からツンと鼻を突くような背徳な香りと共に漂うタバコの煙は兄だ。

僕ら煙家族は高度経済成長時代の空を優雅に漂っていた。

しかし時代は変わり、僕ら一家は存在感をどんどん失っていた。

母さんはIH調理器の湯気となり、兄さんは電子たばこの蒸気になった。父も銭湯の減少と煙レスの波により居場所を無くしていた。しかし頑固に銭湯へこだわり続け、今はサウナの熱波として居場所を見つけた。

こうして僕達家族は時代の空気を読んで、空気のような存在になった。父さんは僕に問いかけてきた。

「まだそのままでいるつもりか?」
「頑固さは親父譲りだよ」

僕は今も昔も変わらない。秋の空をモクモクと泳ぎながら、皆の心を炭火と醤油の香ばしさで一杯にしている。
その他
公開:20/05/05 00:37
更新:20/05/06 11:36
○○家族

たらはかに( 日本 )

たらはかに

https://twitter.com/tarahakani
猫ショートショート入選 「猫いちご ・練乳味」
渋谷ショートショート入選 「スク・ラブラブ・ランブル交差点(哀)」とか。

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