影むしゃ

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「なんだい、これ?」
妻がまた妙なものを買ってきた。
「影武者パン焼き機よ!」
棺桶のような機器から赤い光が照射され、俺の体を上から下へとなぞった。旨そうな匂いがしてきたなと思ったらチーンと音が鳴り、中から俺が出てきた。
「これってパンなの?」
「そうよ、面白いでしょ!」
というと、妻は俺そっくりのパンの手をもぎ、幼い息子に食べさせた。
「おいちい!」
⋯⋯⋯。

それからというもの、家の中は家族の形の影武者パンで溢れかえった。
妻は夢中になるといつもこうなる。
「おい、いい加減にしないか!」
と、台所にいた妻の肩を掴むと腕がもげた。
これはパンか!?
「なぁ、母さんはどこに行った?」
テレビの前の息子を揺すってみると、これもパンだった。

「おーい、みんなどこに行った!」
叫ぼうとしたが、声が出ない、体が動かない。
気がつくと、妻と息子は俺の体を足元からむしゃむしゃと喰い始めていた──。
ホラー
公開:20/05/05 08:30
更新:20/12/27 20:24
4月12日パンの日 ショートショートカレンダー

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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