ドント・ウォーリー

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シーズン途中で外国人選手が一人加わった。

エンリコ・ペンチッソ、27歳。陽気なアルゼンチン人。練習が終わるといつもスマホのアプリで家族と話す。スペイン語が話せるヘッドコーチの神戸(かんべ)によれば大抵は食べ物とサッカーの話をしているらしい。

「ジェフはどうなの?パパやママに電話したりしないの?」

ジェフのドリブルが止まった。目線を10メートル先のリングに向ける。顎を少し上げ、ディップと呼ばれるボールをいったん下げる動作の後、ボールを捧げ高い打点でシュートを放つ。

しゅぱっ。

「父親はおらへん。俺が子供の頃に失踪した」

だむだむと音を立てて跳ねるボールをエンリコが拾う。
「ワーオ、カワイソー」
ラテン系の表現はダイレクトで遠慮がない。

その夜、ジェフはダンクシュートを3本叩き込んだ。そのたびにエンリコは駆け寄ってこう叫んだ。

「ドント・ウォーリー、アイム・ユア・ファミリー!」
青春
公開:20/05/04 23:00
更新:20/05/07 12:06
スポーツ バスケットボール バスケット アリウープをねらえ!

コイッチ( 兵庫県、大阪府 )

DON'T WORRY, BABY!
そろそろ定年退職後の人生設計が気になり始めた55歳。コーヒーとバスケ観戦、ランニング、芝生の育成が趣味。司馬遼太郎と村上春樹の好きな作品を何度も何度も読み返しています。関西の放送局に勤務。
いまは地方都市の弱小バスケットボール・チームを舞台にしたショート・ショートを「アリウープをねらえ!」という連作にして書いています。半年ほど前にメモってあった小説のプロットがベースです。ショート・ショートとしては邪道なのかも知れませんが、皆さんからのいいね!やフォロー、コメントはたいへん励みになるので、ぜひとも忌憚のないご意見をお聞かせ下さい。
よろしくお願いします。

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