The Godfather (ゴッド・ファーザー)

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──名付け親になってくれないか?

密かに想い続けた女性と親友の結婚披露宴という地獄のような場から抜け出し、俺は独り式場併設の薄暗いバーカウンターでカクテル、ゴッド・ファーザーをちびちびやりながら奴……天野の台詞を反芻する。

──名付け親になってくれないか?

苦さと甘さを噛みしめる。
──カラン。
琥珀色の液体に浸った丸い氷がグラスを冷やし、雫が落ちる。
目の奥がじんとする。
ぐっと目頭を押さえ濡れた指先を拭い胸ポケットからペンを取り出す。
そうして俺は天野への伝言をコースターに記し、店を後にした。
それ以来、奴と会うことは無かった。

こんな古傷が疼き、思い出したのもあの時の俺と同じ年頃の長男がフィアンセを連れてきたからだろう。
緊張した面持ちで白い花が揺れるように彼女は云った。

──初めまして。天野雫と申します。

噫。天野……。
久しぶりにゴッド・ファーザーを呑みたい気分だよ。
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公開:20/05/03 15:17
更新:20/05/03 15:34

椿あやか( 猫町。 )

【椿あやか】(旧PN:AYAKA) 
◆Twitter:@ayaka_nyaa5

◆第18回坊っちゃん文学賞大賞受賞
◆お問合せなど御座いましたらTwitterのDM、メールまでお願い申し上げます。

◆【他サイト】
【note】400字以上の作品や日常報告など
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