水の檻

10
7

ざあざあと音をたてて雨が降っている。静かな部屋はまるで水の檻みたい。朝日の射さない、雨の朝。夜が静かに明けてゆく。こんな土砂降りの朝には、一羽の鳥さえ飛んでいない。あの鳥たちは今どこでその羽を休ませているのだろう。

彼がいなくなる。想像するだけで震えた。彼のいない世界は音も彩もない、闇と同じだから。光の届かない、真の闇。自分の存在を確かめることすらできない。
「この手を、離さないで。握っていて」
もう終わりなのだとわかっていた。世界にはふたりしかいなくていいから、彼とずっと一緒にいられたらどんなに幸せだったろう。

昨晩出ていった彼のぬくもりを探した。最後に握ってくれた手はもうここにはない。ベランダに出ると、雨の深い匂い。足元に鳩が一羽転がっていた。
「君も愛されて死んでしまったの?」
そう呟きながら、私は自分の身体を両腕で抱いた。身体中に咲いているこの痣は、彼からの深い愛のしるしなの。
恋愛
公開:20/05/04 01:09

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容