アリス

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諦められるヤツはまだ楽だよ――。

バディ・ウォーター、34歳。プロバスケット選手として盛りを過ぎたベテランは、ジェフの左肩をぽんっと叩いて練習用コートに入った。

「チア・リーダーにアリスっているだろ、胸の大きい」

ボールを拾ってだむだむとドリブルをつく。脇を締めてボールを高く掲げてシュートを放つ。滑らかな指先のタッチ。しゅぽっ。ネットを抜けたボールが床に落ちる。だむだむ。

「彼女には寝たきりのお父さんがいる。意識もなくて口も聞けない」

だむだむ。がこんっ。だむだむ。

「アリスは俺たちを応援しながら、きっとお父さんも応援してるんだ。大きな声で、カムバックを諦めるなってね」

だむだむ。しゅぽっ。だむだむ。

「諦めたくても諦めるわけにはいかない人がいる。俺はそういう人のためにベストを尽くすよ」

その夜、バディが決めたシュートはたった1本。
残り2秒。値千金の逆転シュートだった。
青春
公開:20/05/03 15:00
更新:20/05/07 12:07
バスケットボール スポーツ チアリーダー アリウープをねらえ!

コイッチ( 兵庫県、大阪府 )

DON'T WORRY, BABY!
そろそろ定年退職後の人生設計が気になり始めた55歳。コーヒーとバスケ観戦、ランニング、芝生の育成が趣味。司馬遼太郎と村上春樹の好きな作品を何度も何度も読み返しています。関西の放送局に勤務。
いまは地方都市の弱小バスケットボール・チームを舞台にしたショート・ショートを「アリウープをねらえ!」という連作にして書いています。半年ほど前にメモってあった小説のプロットがベースです。ショート・ショートとしては邪道なのかも知れませんが、皆さんからのいいね!やフォロー、コメントはたいへん励みになるので、ぜひとも忌憚のないご意見をお聞かせ下さい。
よろしくお願いします。

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