「俺たち家族」

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「高橋,俺たち家族みたいなもんだろ!」カフェインで黄色く染まった粒の隙間から決まり文句が流れ出す。課長は今日も好調だ。
「困ったら遠慮せず頼れよ。俺たち家族みたいなもんじゃない。」隣に座る同僚のSは僕の脇腹をそっと小突いて言った。
 風通しのいい社風。挑戦できる環境。そして,家族みたいな上司と同僚。現代が見せる蜃気楼は,しかし確かにそこにあった。職場の環境を羨む者もあったが,僕は職場に満ちた「家族みたい」がどうにも落ち着かなかった。
 鐘が終業を知らせ,僕はぼんやりしたまま帰路につく。
「金貸してくれよ。家族だろ。」散乱する酒瓶。「家族なんだから助け合わなきゃ。」振り上げられるこぶし。「家族なのになんでわからないの。」開ききった歯ブラシ。「彼が新しいパパよ。」ごみ置き場と化した浴槽。洗濯されないままの服,服,服。
「家族,ねぇ。」帰路に沿って流れる川は降り続く雨でひどく澱んでいた。
その他
公開:20/05/03 05:08
更新:20/05/03 12:48

潜水亭金槌

雨森零と真部脩一がすきです

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