貝家族

浅利家は家族貝議の結果、今年の夏は海に行くことになった。
しかし、そこで悲劇は起きてしまった。
パパ貝が妹貝に泳ぎの練習を教えている間に、お兄ちゃん貝は風に流され行方不明に。戻ってきたお兄ちゃん貝の体は、砂を吸い込みずっしり重くなっていた。
何度海水につけても、お兄ちゃん貝の口が開くことはなかった。

今日はお兄ちゃん貝の１０貝忌。
あの日以来、３人の口は堅く閉じたままだ。
パパ貝には入浴中、日課になっていることがあった。
それは、泣き声が漏れないよう湯船に潜ってわんわん泣くことだ。
そうすることで、溺れた息子の存在を近くで感じることができるから。
そんなパパ貝の目の前に、突如お兄ちゃん貝が姿を現し、パカッと大きな口を開いて笑って見せた。
パパ貝が湯船から顔を出すと、浴槽は砂まみれになっていた。
そして、パパ貝は久しぶりに口を開いて、ママ貝と妹貝に向かってこう言った。
「お喋りしない貝？」