普通の家族

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昭和40年代の日本では、家が貧しかった事を除けば、我が家は普通の家族だった。
父と母、3人の子供。そして、ひいおばあちゃんの6人家族。貧乏だったけれど、明るい家族だった。
昭和44年7月の終わり。夏休みの夕食。
丸い大きなちゃぶ台を囲んで、その日は長男の僕が、家族の会話の口火を切った。
「アメリカじゃ、アポロ11号が人類初の月面着陸したっていうのに、うちはいつも普通でつまんないよ」
父が、珍しく真顔で返答した。
「確かに、それはとてつもなく凄い事だ。だけど、普通が一番幸せなんだよ」
僕は、半ばふてくされ気味に、
「言ってる意味が、全然分かんないよ」
父は続けた。
「普通の時には、普通のありがたさは分からないのさ。今のおまえの様に」
僕は父に、むきになって質問した。
「じゃあ、いつ分かるのさ?」
その時の父の言葉。永久に忘れられない。
「昭和の次の次。世界は大変な事になる」
その他
公開:20/05/03 10:30
更新:20/07/12 15:17

渡辺 隆一( 千葉県野田市 )

千葉県野田市在住の、渡辺隆一です。
小学4年生の頃から、文章を書くのが
好きで、今も、趣味で書いています。
ショートショートが、好きです。

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