鯉わずらい

「嬉しいけどさ、美化しすぎだよな」
夫が空を見て言った
「勘違いよ。鯉のぼりのモデルは私たちじゃない」
「ええ？」
「だって、あんな鮮やかな色をしてないでしょう」
「じゃあ誰を？」
「錦さんに決まってるじゃない」
池には錦さんが15匹ほどいて、皆の憧れの的だ
残り200匹は、私たちと同じく、黒い
鮒の上位互換とさえ言われる

今日も客がパンを投げに来た
「ダンナ、早くしないとなくなっちまうぜ」
ニゴイはいつもそう教えてくれる

しかし夫はショックだったのか、呆然としている
「錦さんだって、私たちと同じじゃないか」
確かに同じものを食べ、同じように生活している
それなのになぜ、差を感じてしまうのだろう

そのとき夫の髭が池底に反応した
「子どもたちを起こせ！イトミミズの巣があるぞ」
夫が笑顔になった
これでいいんだ
それぞれの幸せを追求することで

今日を祝おう
子どもの日は鯉にもやってくる