ちいさな家族

　プラットホームで浮かない顔のアキラに会った。
　俺が理由を聞くと、アキラは神妙な顔で、「最近変な夢を見るんだ」と答えた。
「どんな夢だい？」
「家族の夢だよ。見たことのない家族で、父、母、兄、姉、それに僕。五人で普通に暮らしている夢」
「何が変なんだ？」
「毎日見るんだぜ？　毎日毎日。知らない家族と単調に暮らす夢を。……それに最近、夢の中でトラブルが起こってさ。父が浮気をしたらしくて、母がカンカンに怒ってるんだ。多分離婚するな」
「いいじゃないか。夢なんだし」
「そうなんだがね、なんか嫌な予感がするんだ」
「大丈夫だって。電車来た。じゃあな」

　数日後、プラットホームで再びアキラに会った。
　アキラは右手に大きな包帯を巻いていた。
「どうしたんだ？　その包帯？」
「お父さんが出て行っちゃったんだ」
　アキラは包帯をゆっくりと外した。

　その手には、お父さん指がなかった。