昇天のお時間です。

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夕暮れの日本海に尾びれが切断されたマンボウが何体も漂着している。
漢方薬の原料としてマンボウの尾びれが闇で売買されているとは聞いていたが、日本の砂浜で目にするとは思わなかった。
密入国のために乗ってきた船は沖合で沈み、私は仲間と食料を失った。命からがら浜に泳ぎ着いたものの、歩く気力はなく、砂浜のマンボウとただ波に洗われている。美しすぎる夕暮れに来世の平穏を夢みて、私は命尽きるのを待った。
ざり。ざり。ざり。
幻だろうか。霞の中に砂を踏む足音が迫り、派手な着物の男たちがやってくる。そう若くはない6人の男は浜に並べたマンボウの上にそれぞれが正座をして、海に向かってにこやかだ。
離れて座る着物の男が何やら告げると、居並ぶ男のひとりが返答して、他の者と潮騒が笑う。
私は瞼を閉じる。遠くなる意識の中で聞こえる「山田くーん」の声。
最期に見た景色は、嬉しそうにマンボウのボディを積み上げる男の姿だった。
公開:20/05/03 07:17

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