家族の食卓

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「これからは婆やが食事の用意をしてよ!」
 ジョージはアンが作った料理には手を付けずにダイニングを飛び出した。
「こら、母さんに失礼じゃないか!」
 夫のヘンリーがたしなめると、ジョージはドアの向こうから叫んだ。
「僕に母さんはいない!」
 それを聞いたアンはハッとした。この家の家庭教師だった彼女は、ヘンリーに見初められて半年前に結婚したばかり。
 ジョージの本当の母は出産後まもなく亡くなったが、彼がそれを知ったのはつい先日のことだった。
「やっぱり、私じゃいい母親になれそうにないわね」
 食器を片付けながらアンがつぶやくと、隣で手伝っていた婆やがこう尋ねた。
「お坊ちゃまの優しいお気遣いがまだお分かりになりませんか?」
 そう告げた婆やの視線の先には膨らみが目立ち始めたアンのお腹があった。
「婆や、あとはお願い!」
 エプロンも外さないまま、アンは慌てて台所を飛び出した。

 
 
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公開:20/05/02 14:29

ToshijiKawagoe( 北海道 )

・『SFマガジン』 2011年10月号「リーダーズ・ストーリィ」 掲載
・『公募ガイド』第22回小説の虎の穴、佳作
・ 樹立社ショートショートコンテスト2012、5等星
・ 第157回コバルト短編小説新人賞、もう一歩の作品
など、SF、ミステリ、童話、純文学など分野を問わず、ショートショートから短編、長編にとチャレンジしてきました。
 しばらくご無沙汰していましたが、最近復活しました。

ブログ http://rashi.cocolog-nifty.com/
 

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