微かな匂いに泣いていた

0
2

「すいませーん」
「はいよ、すぐ行きまーす」
ここは町外れにあるラーメン屋。
雰囲気は少し暗いが30年間営業しているだけあって味は確かだ。
古き良き老舗って感じだな。
私はこの店にもう12年通っている。
リピーターだ。
いつも変わらぬ優しい味を楽しみに
来ていた。
「やっぱ美味いわ店長これ」
「俺のラーメンなんだから当然だよ」

店長は気が強い。
自分の料理に自信を持っている。
流石はプロだなぁと感心する。
私は気づけばこの店の虜になっていた


そんな店がこの間潰れた。
経営難だったらしい。
私は信じられなかった。
あの店が?馬鹿を言え。
私はそれを確かめるべく、店があった所を訪れた

〈30年間ありがとうございました〉
そう書かれた紙が貼ってあった。

空っぽになった店内の僅かに開いている扉の隙間から微かに残ったいつもの匂いに包まれ、
私はその場で泣いていた。
その他
公開:20/05/01 23:06

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容