「密です」

「密です」

そう最初に言ったのは偉い人だったという。しかし今では道行く子供までもが、「みつです！」と言って人との距離を置くようになっている。
その言葉の起源をたどれば、令和という時代に遡るという。
まだ日本が再び東南アジアに進出する前の話だ。
令和という時代に、ある感染症が流行した際にこの「密です」という言葉が生まれたとされているが、意味は「距離を置け」ということで、接触することで感染する病気を拡大させないための言葉だったという。
それが転じて、嫌いな人が近づいてきたときや、ネガティブな場面の言葉として「密」が使われるようになった。

「って書いてあるけど、本当なの？おじいちゃん」
「そんなことが辞書に書いてるのか。ちょっと見せてごらん」
「密！密！近づかないで！くさいから！」
「わし、嫌われとるんじゃな」

おじいちゃんの部屋には悲哀が密になっていた。