メーデー

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 毎年の五月一日。ある会場で、ショートショート小説のコンテストが行われる。

 毎年、審査員は何故か黒ヤギ。日本語を話せるらしい。投稿者は四百字詰め原稿用紙一枚に物語を書き、書き終えた原稿を、その場で黒ヤギに食べさせる。

 落選なら黒ヤギは「めええ」と鳴き、入選なら、食べた物語をその場で全文、日本語で語ってくれるらしい。しかし私の知る限り、毎年誰も入賞しない。誰もが黒ヤギを「めええ」と鳴かせて終わりだ。

 そして今回も、投稿者は黒ヤギに原稿を食べさせていく。そのたびに黒ヤギは「メエエ」と鳴く。私も原稿を食べさせたが、「めええ」と鳴かれてお仕舞い。書いた内容を語ってもらえず。

 私の次に投稿した少年も、黒ヤギに原稿を食べさせたが「めええ」と鳴かれた。が、その少年は妙に嬉しそうだった。不思議に思い、私が理由を尋ねると少年はこう答えた。

「俺、今の原稿用紙に『めええ』って書いたから」
その他
公開:20/05/01 23:15

秋村ふみ( 青森県 )

300文字という限られた空間で、自分なりのモノガタリを描かせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

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