サウナ家族

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こんな風にサウナにやってくると昔のことを思い出す。
僕ら家族は裕福ではなく、たまの贅沢といえば銭湯だった。
父と二人で男湯へ入ると、隣に座り体を洗う。
そのあとは湯船に入らずサウナへ直行していたっけ。
収容人数は最大でも三人くらい。
ただ、僕ら以外にサウナを使う人はいなかったから、いつも貸し切り状態だった。
サウナのなかでも二人並んで汗をかいた。
そこでは終始無言。
何を話すわけでもないけれど、心は通じあっているような気がした。
他の人からすれば小さな出来事かもしれない。
でも僕にとっては特別な時間だった。
いつも無愛想だった父を嫌いにならなかったのは、ひとえにサウナのお陰なのだと最近になって思う。
僕は彼のような男になれているだろうか。
ねえ、どうかな?
僕は心のなかで、空の上にいる父と隣に座って汗をかく息子に語りかけた。
その他
公開:20/05/01 11:37

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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