スポーツ家族

部長の自宅に夕食に呼ばれた。目の前には、湯気がたった牛肉の塊がある。
「どうだ今里君、フィレステーキだ！」と部長は、シャツをまくり、腕をあらわにして言った。ラグビーで鍛えた腕は丸太のようだ。
「すいません、こんな豪華なものを」
「400グラムだ、たんと食え！」
400グラム…。部長の巨体を維持するにはそれくらい必要なのか。
「やわらかい！」と部長の隣に座っている部長の娘は言った。小柄だが柔道日本一だ。
「おかわりもあるよ、皆たくさん食べて！」
部長の妻が言った。バレーの元・日本代表だからか二人の食べる量に驚かない。
「今里君、やわらかいから箸で切れるぞ」と部長は言った。
僕はやってみた。
かたい。切れない。
「本当、箸で切れる」と娘が腕を筋ばらせて肉を箸でちぎった。「今里さんやってみて」
かたい。切れない。
「今里くん、切ってみろ」
かたい。切れない。
よし、この家族との縁を切ってやろう。