吸い取った家族

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女は父親の看病の為、見慣れた町の病院までやってきた。何年も会っていない父。余命宣告を受けている父。可哀想な父。いつも一生懸命だった父。「生きてて何が楽しいのかわからない」と反抗期の時そんな言葉をぶつけた後悔が蘇り嗚咽が漏れた。女はコンビニの商品棚からよく見ず何かを手に取りレジで会計を済ませて足早に自動扉から飛び出して雨の中を走った。病室に戻ると父はスヤスヤと眠っていた。レジ袋から取り出した商品はパッケージに【時間を吸い取るよ】と書かれた注射器だった。取扱説明書を読むと〈何をするにしても覚悟してね〉と赤い太字の警告文があった。父の腕に針を刺して血を抜くと時計の針が逆に回りだし父が若返り目を覚ました。「あ、おふくろ、どうしたの?」女は驚いて壁の鏡を見ると白髪の老婆になっていた。「ごめんね」「なんだい」「謝りたかったの」「なんだよ、謝ることなんか無いさ」「うん」女は父の頬に顔を寄せて頬擦りした。
その他
公開:20/04/30 12:07
更新:20/04/30 14:07

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